猫と暮らせば。

君と生きる、この世界で、この家で、君たちと生きていく。

【君と生きるために】世界で一番幸せな猫(6) 陽ざしの中へ

 シャンを洋室に連れて行くと、おずおずとキャリーに近づいた。匂いや気配で仲間と察したのだろう。

 そして、キャリーの中をのぞき込むと、シャンはペットキャリーから出て来ない小さな白い猫の身体を舐め始めた。シャンはこの、自分よりひと回り小さな猫が、自分の弟分だと理解したのだろう。

「優しいお兄ちゃんやね、良かった」

 私に連絡をくれたボランティアの女性が涙をにじませた。

 私は、自分の事しか考えていなかった。いや、私にとって大事なのはシャンがこの猫と一緒に暮らせるかどうかであって、この猫をシャンが受け入れないからとシャンを放り出す選択肢がない以上、それは当たり前のことなのだが、ボランティアの方々からしてみれば、長い道のりだったに違いない。

 世界は幸せな光に満ち溢れているわけではない。光があれば影もある。

 誰にも見えない影の中で、うずくまっていることしか出来ない小さな命たちを通報により見つけ出した時、それは喜びだっただろうか。残酷な現状、これから立ち向かわなければならない現実が彼女らに襲い掛かってきたに違いない。

 あくまでもボランティアだ。彼女たちは、無償で命を救っている。それに対して、誰かからお礼を言われることも殆どなく、それでも同じ人間の犯した無責任や無慈悲の償いを肩代わりしている。

 私にはとても出来ないことだと思う。

 一匹一匹、自分の下に来た小さな命たちを幸せに導いていかなければならない。

 ジェミマやタガーを保護した時の私の行いを、私はこの時初めて反省した。なんて無責任なことをしたのだろう。あの時もしもジェミマを引き取りたいという人が時間通りに来ていたら、ジェミマは今頃どうなっていたのだろう。彼の家が、ちゃんとペット飼育が許されているのかとか、彼がどんな仕事をしているのかとか、病気をした時にちゃんと病院に連れて行ってくれるのかとか、一生涯家族として大切にする覚悟があるのかとか、そんなこと一切確認しなかった。気にもしなかった。

 貰い手が見付かれば、幸せになると勝手に信じていた。

 浅はかだった。

 人に飼われていてもこの猫のように苦しい状況に置かれることだってあるというのに。

 それらを全て乗り越えて、やっとここまで来て、先住猫が彼を受け入れたということは、1週間のお試しの後も、このままここで暮らせる可能性が高いということだ。

 安堵するのは当たり前だ。

 

 猫ボランティアの方々は、キャリーを持ち帰らなければならなかったため、白い猫を抱き上げて床に下ろした。白い猫は、一気に部屋の中を駆け回り、ベッドの下の一番壁際で小さく丸くなった。

 シャンは受け入れたけれど、当面、シャンもこの部屋に入れないようにすることをボランティアの方と約束して、私はふたりを見送った。

 

 やっと、彼は陽ざしの中で生きていける。私が、ずっと大切にする。

 

 ベッドとは反対の壁際に、私は静かに正座をした。

「私があなたを、世界で一番幸せな猫にします。生きていて良かったと思えるようにします。だから、私の傍にいてください」

 まるでプロポーズのような言葉を、彼に向けて呟く。

 シャンに対してはそんな覚悟もないままに受け入れてしまったけれど。

 一生大切にする。

 一生幸せにする。

 

 世界で一番幸せな猫になってください。