猫と暮らせば。

君と生きる、この世界で、この家で、君たちと生きていく。

【君と生きるために】世界で一番幸せな猫(4) もしも

 全員、生後1歳半くらいといわれていた。

 雑種だが、白猫は白い猫以外の血が一切混じっていないのではないかと思うくらい耳の先からしっぽの先まで真っ白だった。元気な白猫は、しっぽが短めだったが、真っ直ぐに伸びていた。シャンは長いしっぽの先が折れ曲がっているし、コタロウは稲妻型だ。ジェミマは真っ直ぐだが、案外猫のしっぽは曲がったりすることが多いと聞くから、本当に美しい猫だった。

 おやつをあげた後、おもちゃで遊んだ。

 2匹の猫は、棒に紐を結んでその先にちょうちょの飾りのついたおもちゃを懸命に追いかけたし、猫じゃらしやボールもひとつも逃さず追い回した。

 元気いっぱいだった。

 これだけ元気なら、シャンと一緒に部屋中を駆け回るだろう。シャンと仲良くなったとしたら、キャットタワーのハンモックを取り合ったり、鬼ごっこをしたりお互いのしっぽを噛み合って遊んだりするかも知れない。

 これだけ元気なら。

 

 一方で、部屋の隅に固まった人形のような猫は、本当に生きているのか不思議になるほど微動だにしなかった。目の前で猫じゃらしを振っても、ボールを転がしても見向きもしない。眼球が動かないものだから、目が見えていないのではないかと思う程だった。

 この子は、うちに来ても怯えて全く動かないのではないだろうか。

 途中から、私はその猫を動かすことに興味がわいた。どんな風に歩くのだろう。どんな走るのだろう。何が好きで、何を喜んで食べるのだろう。

 

 1時間。

 2匹の猫と遊び、1匹の猫を動かそうとしたが、私は遊び倒すに終わり、とうとう壁際の猫を動かすことは出来なかった。

 

 元気な可愛い猫たち。

 

 もしもこの元気な白猫をもらったら、シャンと仲良く遊ぶことは想像ができた。

 けれど、もしもこの元気な白猫をもらったとしたら、壁際の猫はどうなるだろう。

 人懐っこくて、活発で、よく食べ、よく遊ぶ。

 こんなに元気なら、きっとこの子たちの里親は間もなく見つかるだろう。相性の良い貰い手にきっと巡り合うに違いない。

 でも、壁際の猫はそうではない。元気がなくてまるで動かない猫を、誰が欲しがるだろう。こんなに美しい猫なのに、部屋の隅で目にも止まらないのではないだろうか。

 私は、猫ボランティアの女性に断って、壁際の猫に触った。そっと手を差し伸べ、あごをくすぐっても反応はなかったが、逃げもしなかった。抱き上げると、手のひらに鼓動が伝わった。

 生きている。

 人形じゃない。

 その時、手のひらで感じた温もりを忘れることは出来ない。

 この子と生きたい。

 心からそう思った。

「うちに来ない?」

 手の中の真っ白な猫に声をかける。

「この子を頂いても良いでしょうか」

 そう呟くと、ボランティアの女性は穏やかに破顔した。

「うちにおいで。一緒に暮らそう」

 真っ直ぐで長いしなやかなしっぽが、ゆらゆらと揺れた。