猫と暮らせば。

君と生きる、この世界で、この家で、君たちと生きていく。

【君と生きるために】春夏秋冬(2) 私の暮らし

 私を会社に誘ってくれた社長は、私の当時の勤め先の経営状態が危うかったことを知っていた。多分、私が営業さんに話したのを聞いたのだろう。もし会社を辞めるならうちに来ないか、と誘ってくれたのだ。時を同じくして、勤め先は事業縮小のため、大掛かりなリストラに乗り出した。私もその対象になっており、会社都合での退職となった。その翌日には新しい職場での勤務が始まったのだから、ラッキーだったと思う。

 梅雨の頃にそうして職場を移り、仕事を覚えるのに必死になっている内に、いつの間にか夏になっていた。

 

 暑さが苦手なのは、私もシャンも同じだった。

 シャンはだらしなくお腹を仰向けにして寝る。餌を山ほどあげているわけでもないし、あればあるだけ食べるタイプの猫でもない。運動もかなりしている方だと思うのだが、シャンのお腹はたるんでいた。

 ゆるゆるのお腹は、不健康で心配ではあったが、しかし、触り心地がたまらなく良かった。甘えん坊のシャンは、私に常にくっついているのが好きだった。

 

 ある時、仕事で思い掛けないことが起きた。

 先輩が、タイルの発注量を間違えた。外床用の500角タイルだったと思う。200枚必要なのに、200ケース頼むという漫画やドラマでよくあるやつだが、1ケース10枚入りなので、実に2000枚のタイルが現場に搬入された。

 この会社は、もともと小さな工務店だったため、その頃の名残で昔のお客様や社長の知り合いが家を建てて欲しいと依頼してくることはしばしばあった。自社の新商品や建材を試験的に使わせてもらうなどの名目で、安く受注し、先輩がそういった物件を担当していた。

 そんな現場のひとつだったが、そこは天井高2.5メートルを超える駐車場の上に敷地があるというところで、階段を使って手作業でせっせと運んでくれた荷運び業者さんに、「間違っていたから引き上げてくれ」とは言えない。

 先輩と工務課の課長と共に現場へ行き、手作業でタイルを下ろすことになった。まだ開封していないタイルは、そのまま返品が可能だ。つまり、返送料くらいしかお金がかからない。商品代はまるっと戻ってくる。

 何しろ、現場までの高さがある。トラックの荷台に工事課の課長が上って手を伸ばし、私が上から身を乗り出せば、タイルの受け渡しができることが解った。

 炎天下の中、私は落下しないように注意しながら身を乗り出し、課長は私とタイミングを合わせながら下ろすというより殆ど落としているに近いタイルの包みをキャッチする。

 先輩(女性)は、現場で打ち合わせに夢中だったので、手伝ってはくれなかった……。

 

 その日一日で、肌がひりひりするほど真っ黒に焼けた。

 腕も脚もパンパンだった。課長が冷たいジュースをおごってくれたので、缶を腕や顔に当てて火照りを冷ました。

 

 その日、ぐったりして家に帰ると、シャンが駆け寄ってきた。これはいつものこと。汗でべったりしていたのでシャワーを浴び、髪を乾かすのもそこそこにベッドに倒れ込むと、シャンは筋肉を酷使しすぎた私の腕にすり寄り、暑いだろうに、私の脇に身体を寄せて仰向けになった。

 私が疲れていたり泣きたかったり、苦しかったりすると、シャンはいつも側にいてくれる。普段のようになでろと鳴いたりもしない。察して、ただ傍らでじっとしている。

 そんなシャンの優しさに、私はいつも救われていたのだ。