猫と暮らせば。

君と生きる、この世界で、この家で、君たちと生きていく。

【君と生きるために】いくつかの縁(4) 出逢い

 アルバイト先へは、自宅より実家の方が近かった。

 私は、土曜日にアルバイトを終えると、そのまま実家に泊りに日曜日は実家からアルバイト先に向かうようになった。

 3月下旬のある土曜日、小雨の降る夕方だった。私がアルバイトを終えて実家に着くと、ガレージに一匹の仔猫がいた。生後3、4か月くらいだろうか。我が家に転がり込んできたころのシャンとさして変わらない大きさ。濃いグレーに黒の縞柄、所謂「サバトラ」と呼ばれるタイプの猫だ。

 野良猫か?

「こんにちは」

 何気なく、声をかける。猫はためらいもなく、とことこ私の傍に寄ってきた。

 その、歩き方に違和感があった。

 片側に傾いている。肩をすくめたような姿勢で背骨が大きく浮き上がり、ディズニーアニメーション『ノートルダムの鐘』のカジモドを思わせる、いびつな姿勢だった。

 私は猫の頭をぐりぐり撫でた。甘えるように猫は鳴いたが、その声はひどくしゃがれただみ声だった。随分痩せているようで、この仔猫は、外の世界で生きていけるのだろうかと不安が押し寄せてきた。

 とはいえ、自分の家でもないのだし連れて上がることも出来ず、取り敢えず父か母に猫のことを話そうと門扉を開けると、仔猫は私の横をするりと抜け、軽やかに外階段を駆け上がる。そして、玄関の前にちょこんと座り、私が玄関を開けると、我が物顔で家に飛び込んだ。

 なんだ、新しい猫を飼い始めたのか。

「お邪魔します」

 実家に上がり、居間の戸を開けると、父が床に胡坐をかいてテレビを見ていた。猫は父の足に這い上がり、そのまま眠り始めた。

「可愛いね」

「……あぁ」

 父は気にする様子もなくサッカーの試合を観戦していた。

 20分程して、パートから帰ってきた母は、居間に入ってくるなり、一言。

「何、その猫?」

 ……は?

「え、ガレージにいたけど」

「なんで家にいるの?」

「飼ってるわけじゃないの?」

「違うよ」

 ……はい?

「え、お父さん何も言わなかったけど?」

「いや、いきなり脚に乗ってきたなとは思ったけど」

 あれは、驚いていたのか。さも当然のように受け入れていたから、すっかり我が家の猫なのだと思っていたが。

 仔猫は、父の脚からずり落ちるように床に降りると、のこのこ歩いて今度は母の足元にすり寄った。

「この子、歩き方おかしいね」

 母は驚いた様子で言う。抱き上げると、浮き上がったあばらが母の指に触れたようだった。母の目に、涙があふれた。

「野良だったら、生きていけないんじゃないの?」

 母は、動物物のドキュメンタリーが嫌いだ。というか、極端に弱い。『フランダースの犬』のオープニングテーマの冒頭「ランランラン~」を聞くだけで泣くような人だ。目の前に、明らかに生存能力の低そうな猫がいて、放っておけるはずがない。

 だが、私は思ったのだ。

 シャンも大概だと思ったが、この仔猫はとても生存能力が高い。自分がどうやったら生きていけるか、誰に取り入れば良いのか、解っていたように思う。

 

 出逢いは訪れた。仔猫は、実家で飼われることになった。

 ミュージカル『CATS』に登場するタンブルブルータスによく似た模様の男の子だから、「タンブル」とその日名付けたのだが、この名が定着せず、結局、母だか弟だかがつけた「コタロウ」という名で今は呼ばれている。