猫と暮らせば。

君と生きる、この世界で、この家で、君たちと生きていく。

【君と生きるために】いくつかの縁(3) 一歩ずつ

 2月の土曜日。

 そのモデルハウスはオープンした。天然素材をふんだんに使った、シックハウス症候群などの原因になるような身体に悪い影響がほぼないという住宅。外壁も室内の壁や天井も漆喰で仕上げられ、床は無垢材。一歩入ると、いい匂いがした。新築住宅特有の匂いとはまるで違っていた。

 モデルハウスを建てたのは、その建材を卸しているメーカーの代理店になっている工務店で、オープンには建材メーカーの社長も来てテープカットを行った。強い癖のついた白髪交じりの髪の、大らかそうな社長は、ジーパンにセーターというラフな格好で、ひょろっとして眼鏡をかけた、こちらもラフな格好の営業マンと一緒に来ていた。

 年明けにアルバイトをしていた時に来ていたおじさんの内、50代の恰幅の良い男性は工務店の社長だった。それから、小柄な60代が店長。白髪交じりの背の高い60代が設計部門の責任者、30代の男性は工事部の社員だった。オープンの日にはその他に、30代前半くらいの事務の女性がいた。

 私は早めにモデルハウスに入り、その独特な家の特徴を、工務店の社長から教えてもらった。

 その日も寒かったが、空は晴れ渡っていた。 

 新しいモデルハウスのオープンとあって、お客さんはひっきりなしに入ってきた。他の住宅に比べて、外観やコンセプトが個性的であったことも理由のひとつだと思う。

 賑わいに、私はわくわくしていた。

 日曜日も同じく、私はアルバイトとして呼び込みに立ち、楽しく仕事をさせてもらった。

 日当を頂き、帰り際、店長から、「来週からも手伝ってくれへんか?」と聞かれた。

 平日、事務職として働き、土日はモデルハウスでアルバイト。完全な休日がなくなるのだが、そんなことは大したことではないように思われた。私は、このモデルハウスでの仕事が楽しくなってしまっていた。スタッフも気さくな人ばかりで、これからこの家が売れたり、イベントがあったりするのも楽しいのではないか、家から自転車で通える距離だし、シャンのためにも収入を増やさなければならないのだし。

 ほとんど考えもなしに二つ返事で了承し、翌週も、私はアルバイトに通った。

 初日のような賑わいはなかったが、建材メーカーの本社から来る、ひょろっとした眼鏡の営業担当の男性が、実に物知りで勉強熱心で、質問をすればなんでも答えてくれるのも面白かった。私は、どんどん知識を蓄え、お客さんに話をすることも増えれば、益々仕事も面白くなった。

 一歩ずつ、前に進んでいっている感覚。自分のこころを信じれば、何も恐れることはないように感じられていた。

 

 そんな中で、東日本大震災が発生。

 日本は未曽有の大災害に混乱していたが、近畿地方は大きな被害はなく、その週も私はアルバイトでモデルハウスに行った。

 地震大国のこの国で、災害から身を守る家というものがいかに重要かを、その時教えられた。

 

 そして、冬と春の間のある土曜日。

 アルバイト先から実家に向かった私は、思い掛けない出会いを経験する。