安倍元首相銃殺事件が発生した当時、私は白金台の現場でダストボックスを組み立てていた。
マンション前に設置するもので、2時間かかった。炎天下。じりじりと日差しが照り付けてきた。
仲の良い職人さんから、「奈良やべえ」とLINEが入ったのが12時過ぎ。丁度、現場の片付けをしている最中だった。
いつもの戯言だと思い、昼休みだし手は空いているだろうと即座に電話を掛け、「奈良の何がやべえんですか?」と怒って見せると、
「え、知らないの? 安倍さん撃たれたんだよ、大和西大寺で」
意味が解らなかった。
大阪ー京都に繋がる奈良のターミナルで、近隣には近鉄百貨店やならファミリーといった商業施設がある。
私が初めてひとり暮らしを始めた時の最寄り駅であり、ゴールデンウィークに遊びに来てくれた友達の勤め先がある駅でもある。
彼女は、銃声を聞いたという。
日本で暮らしていて、一生聞くことがなくてもおかしくない音。
ニュースで何度も映った場所は、かつて何度も利用した駅のロータリー。
なぜ。
そんな言葉しか出ない。
仕事は黙々としたけれど、ずっと安倍元首相の安否が気がかりだった。
夕方、「亡くなった」と知らされた。
悲惨な事件が起きてしまった。
どこで起こっても、決して許しがたい事件ではあるものの、それが自分の愛する故郷で起こったとなると、胸が締め付けられる思いがした。
観光業に頼っている奈良は、新型コロナウィルスの国内感染者第1号が出た時も大きな打撃を受けた。コロナ禍で苦しい状況にあり、これからやっと盛り上げられると思った矢先の大事件。
また、奈良から人の足が遠のき、「奈良は危険」というレッテルを貼られることを思うと、いたたまれない。
奈良のために何かできないか。
強く思う。
奈良に帰りたい。
奈良のために、奈良で働きたい。
そのために、動き出すべき時が来たのかも知れない。
どんなことがあっても、それでも奈良を、私は愛している。